いつかあなたに還るまで


ピピピッ


突如胸元から響いた音にビクッと体が竦む。
のろのろと力の入らない手で取りだしたスマホには、会いたくて会いたくて、気が狂いそうなほどに欲して止まなかった最愛の女の名前が刻まれていた。


『お帰りなさい。長期のお仕事、本当にお疲れ様でした。なかなかタイミングが合わず電話に出られなくてごめんなさい。急遽提出しなければならないレポートが入ったため、少しの間会うことは難しくなってしまいました。落ち着いたらまた連絡します』


その言葉に心底がっかりするはずなのに。
僅かでも今すぐ彼女に顔を合わせなくてすむことにほっとした自分の浅ましさに吐き気すら覚えた。


これは天罰なのだろうか。
母の遺志など顧みず、復讐に取り憑かれ続けた男への、天罰。

何の罪もないまだ見ぬ子どもに対してですら天罰だと思ってしまう自分が、この世に存在することそのものが許されないほどの俗物に思えて恐ろしかった。


「し、ほ…」


浮かんでくるのは彼女の笑顔ばかり。

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