いつかあなたに還るまで

「ヨーロッパ出張お疲れ様でした」
「…ありがとう」

向かいに腰を下ろした隼人に何の屈託もなく向けられる笑顔。
彼女を最後に見てから早一ヶ月と少し。あれほどこの時を待ち望んでいたはずなのに、今はその顔を正面から見ることができない。視線を逸らし気味にぎこちない笑みを浮かべたことに、不信感を抱かれはしなかっただろうか。

…なんて、そんなこの期に及んで取り繕ったところでどうしようもないことを考えてしまう。現実逃避もいいところだ。



しばらく会えないと言っていた志保から連絡がきたのは二日前のこと。
話したいことがあるので時間を作ってもらえませんかと、以前二人で来たことのあるカフェへと呼び出された。

もともと帰国したら伝えたいことがあると言っていたのは自分の方だ。
彼女の用件が何かなど知る由もないが、きっと会う目的の一つにこちらの話を聞くことも含まれているだろう。少しでも早くと願っていたその瞬間が、まるで地獄へのカウントダウンへと変わってしまったかの如く、全身が鉛のように重い。


…あれから、気が狂いそうなほどに考えた。
考えて、考えて、考えて。
自分はどうしたいのか、どうすべきなのか。
ここに来る瞬間まで考え続けて、今こうして彼女を目の前にしても尚、もっと残された道があるのではないかと微かな希望を見出したい自分がいる。

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