いつかあなたに還るまで
『明日検診に行ってくるから。隼人も行かない?』
だがまるで今日志保と会うことを知っているかのようなタイミングで現実に引き戻された。とても一緒になど行けないが、こうしている間も里香子の中では成長を続けている命があるのだと思うと、いつまでも逃げ続けることなど不可能だと思い知らされる。
里香子を愛することはできない。
だが……子どもを見捨てることも…できない。
もし見捨ててしまえば、血の繋がった父親と同じ所に堕ちてしまう。
『ほらみろ。結局お前には同じ血が流れてるんだよ』
あの日以降、もう二度と会うこともなかったはずの父親が夢に出てきては、それみたことかと嘲笑っている。
お前はその程度なのだ。
所詮蛙の子は蛙なのだと。
違う。俺は絶対にあんな人間にはならない。
激しく葛藤しながらも、即ちそれは志保との別れを意味する。
その現実に打ちのめされては、また出口の見えない迷宮へと迷い込む。
だが一つだけはっきりしていること。
それは自分では志保を幸せにしてやることなどもうできないということ。
どんな道を選択したところで、彼女への気持ちを自覚した時のような自分へは戻れないのだから。