いつかあなたに還るまで
するりと、彼女の手が離れていく。
微かに震えていた、その手が。
この世でただ一人愛した、女が。
この手からすり抜けていく。
「し…ほ…」
どんどん遠ざかっていく背中を追いかけることも、縋ることもできない。
行かないでくれと魂だけが叫び続けて、声を出すこともできない。
その姿が見えなくなっても尚呆然と立ち尽くす男に、周囲の好奇の目が容赦なく突き刺さる。
だがそれでもその男の瞳は一点を捉えたまま微動だにしない。
愛する女を永遠に失ってしまうのだという現実と。
傷つけるだけで彼女に何一つ与えられなかった自分の愚かさに。
ただ、ただ、呆然と。
悪魔に魂を抜かれてしまったかのように呆然とその場に立ち尽くし続けた。