いつかあなたに還るまで
「………………隼人?」
いつまで経っても何もしようとしない男に痺れたのか、目を開けた里香子の声には明らかな不快感が滲んでいた。おまけにしがみついていた男は前を向いたままで自分を見てもいない。
カッと全身の血液が逆流していくのを感じたが、何を思ったか、しばらくすると里香子はふふっと面白そうに肩を揺らした。そうして綺麗なネイルを施した指で隼人の首筋をするりと撫でる。
「ふふ、まだあの子のことが吹っ切れてないの? 相変わらず酷い男ね。でもいくら考えたところで無駄よ。あなたは永遠にあの子のもとへは戻れないの。尤も、続いてたところであんな小娘いずれ飽きて捨ててたんだから、早めに踏ん切りをつけさせた私に感謝して欲しいくらいだわ」
「………」
ギリッと皮膚を引き裂くほどに握りしめた拳に力が入る。
「それに忘れないでね? あなたは自分の意志で私のところに戻って来たってこと。万が一にも私とこの子を捨てるようなことがあれば…誰に何があっても知らないから。…ね?」
舐めるように耳元でそう囁くと、再び隼人の腕に自分の手を絡ませた。
「ねぇ、来月にはちゃんと私の親に挨拶しに来てよね?」
「………わかってる」
「うふふっ、楽しみだわぁ~!」
纏わり付くような猫撫で声が遥か遠くに聞こえる。
上機嫌にショーウインドウを指差す女の隣で、対照的な男は生気を失った表情のまま、ただぼんやりと突っ立っていた。