いつかあなたに還るまで
あの日、彼女は一体どんな想いを抱えながら別れを口にしたのか。
想像するだけで息も出来ないほどに苦しくて堪らない。
いい加減な気持ちで付き合っていたからお互い様?
そんなことがあるはずがない。
彼女の告げた言葉の中に真実があるとするならば、それは自分達の出会いが望まざるものだった、ただその一点だけ。それ以外は全て身を引くためについた嘘だ。
それに気付かないほどバカじゃない。
ヨーロッパにいる間に里香子が接触し、おそらく高圧的な態度で志保に別れを迫ったのだろう。そこに妊娠しているとの事実が加われば、あの性格の志保に身を引く以外の選択肢があるはずがない。
そんなこととは露知らず、ただ一人お気楽にプロポーズできる日を今か今かと心待ちにしていただなんて。とんだピエロもいいところだ。
泣き言一つ言わず、恨み言一つ言わず。
ただ静かに、自分だけを悪者にして去っていった。
自分よりも相手の気持ちを真っ先に考える、誰よりも優しい彼女を深く傷つけてしまった。
「志保っ…」
謝りたい。
会って土下座でもなんでもできることは全部やって、自分の過ちを全て認めて謝罪したい。
…けれど、それはただの自己満足に過ぎない。
謝ったところで未来が変わるわけではないのなら、闇雲に彼女の傷口を広げるような行為などできるはずがなかった。