いつかあなたに還るまで
のろりと再びスマホを耳にあてる。
『あのっ…すみません、聞こえてますか?』
「……お前は誰だ」
突き刺すような低い声に、電話の向こうで息を呑む気配を感じた。
『…あの、ごめんなさい。今名前を名乗ることはできないんです。でも、どうしてもあなたにお伝えしたいことがあって…!』
「……」
全くもって支離滅裂な言葉に瞬く間に険しい顔へと変わっていく。
だがふざけるなと言って、…いや、本来であれば無言で終わらせていたはずの通話を続けているのは、相手の女が口にした『里香子』という名前が引っかかっているからだ。
ざらざらと、胸を撫でるこの奇妙な違和感はなんなのか。
「……里香子がどうした」
『…今週金曜の午後4時、表参道にあるボヌールというカフェで待っていてもらえませんか? 場所は入って一番右奥の席で』
詳細は語らないくせに指示内容はやけに細かいことにますます不信感は募る。
だが、相手がふざけたことを言っているとはどうしても思えなかった。
『意味のわからない電話で本当にごめんなさい。でも、そこに来ていただければ全てわかると思いますから。どうしてもあなたに来て欲しいんです。どうか、どうかお願いしますっ…!』
イエスともノーとも答えない隼人に一方的に伝えると、誰かもわからない女はプツリと通話を終わらせた。