いつかあなたに還るまで
迎えた金曜日、隼人は午後から仕事を休んで指定された場所へと向かった。
人気店なのだろうか、中途半端な時間にもかかわらず店内は多くの客で賑わっている。だが指示された右奥の席は、偶然なのか必然なのか知る由もないが空いていた。
「…コーヒーをブラックで」
半信半疑な気持ちを抱えたままその場所へと腰を下ろす。ぐるりと視線を這わせた店内には見知った顔は一人もいないように見える。
…この後一体何があるというのか。全く想像がつかない。
非通知でかかってきた相手の名前すらわからない状態。もしあれがいたずらの類いだとすれば、この後は確実に間抜けな待ちぼうけを食らうことになる。
あの女は確かに里香子の名を口にしていた。あるとするなら、それは里香子に関する何かだということだろう。
一体何が…?
「ごめ~ん、買い物してたら遅れちゃった」
そこまで考えたところで耳を撫でた聞き覚えのある声に、ハッと顔を上げる。
「…里香子」
今頭の中を占めていた人物の登場に、隼人は咄嗟に上げたばかりの顔を伏せた。パーテーションを隔てた対角線上に座った里香子からはこちらは見えていないだろうが、自分がここにいることを知られてはわざわざここに来た意味がない。そう思えてならなかった。
彼女を視界に捉えた瞬間何かとてつもない違和感を覚えながらも、まるで逃亡犯にでもなったかのような気分でひっそりと息を潜めて全神経をそちらに集中させる。