いつかあなたに還るまで
「…里香子、あれを返してほしいの」
聞こえてきた別の女性の声。それは間違いなくあの日のそれと同じだった。
顔はわからないが、電話をしてきた張本人がそこにいたということだろう。
「あぁ、これね。ふふ、いつも助かるわ。はい、どうぞ。あと数回はよろしくね」
カサッと何か紙のような音が響く。
「…そのことだけど。もうこれ以上里香子に協力することはできない」
「……は? いきなり何言ってるの?」
「いきなりじゃない。もうずっと考えてた。悩んで、悩んで、悩んで…。でもやっぱりこのままじゃいけないって。こんなこと、許されることじゃ____」
「今さら何言ってんのっ?!」
テーブルを叩いたのか、大きな声と共にバンッという音が響く。驚いた周囲は何事かと息を詰めるが、視線を集める張本人はどこ吹く風で目の前の女性に怒りを露わにしたまま。
背中しか見えないが、その女性が萎縮しているのは明らかだった。
「協力してくれるって約束したわよね?」
「した…けど、もうこれ以上は耐えられない。私が限界なの」
「はぁ? 今さらそんな言い分が通用すると思ってるの? それともなに、あんたの父親の会社への融資、なくなってもいいって言うの?」
「それはっ…」
詳細まではわからないが、明らかに脅迫めいたセリフに、途端に女性が言葉を詰まらせる。里香子のこういうところは嫌というほど知っているが、誰かも知らない女とのこのやり取りですら吐き気がする程に気分が悪い。