いつかあなたに還るまで
「もしかしたらこのまま帰って来られないのではと思ってました」
「え?」
邸へと向かう車中、宮間が唐突にそんなことを言い出した。
「この五年の間ただの一度も帰国されなかったので。もしかしたらあちらに永住するつもりなのかと」
その言葉の端々にちょっぴり愚痴が滲んでいるような気がするのは考えすぎだろうか。まるで寂しかったと言われているようで、志保は苦笑いしながらも嬉しさを隠せない。
「あはは、確かにそうよね。…でも向こうに行くと決めた時から、帰国するまでは中途半端に帰ってきたりしないって誓ってたの。それくらいの気持ちがなければ、きっとすぐに弱い私が顔を出してしまうから…」
「志保様…」
「何度も宮間が恋しくなった。陽だまりの里の皆も元気かな、大きくなったかなって。考えない日は一日だってなかった。でも、再会するときには胸を張って会える自分でいたかったから。だから、帰って来なかったことは後悔してない」
きっぱりとそう言い切った志保には、もう前のようなどこか儚げな雰囲気などどこにもない。色々な想いを抱えながら一人で過ごした時間は、宮間が想像していたよりもずっと彼女を大人にしていた。
「…そうですよね。志保様ならきっとそうするだろうとわかっていました。でも正直寂しいと思ってしまうこともあったので。つい零してしまいました」
「やだ! もう、宮間ったら…」
ふふふと顔を見合わせて笑っていたが、やがて宮間の表情が真剣なものへと変わっていく。
「…でも本当によろしかったんですか?」
「え?」
「帰国する理由をご存知ないわけではないですよね?」
彼女が言わんとすることを理解した志保からも笑顔が消えた。
そうして合わせ鏡のように互いに真剣な顔で向かい合う。