いつかあなたに還るまで

アメリカで生活する志保の元に見合いの話が舞い込んだのは、今から三ヶ月ほど前のこと。連絡をしてきたのは宮間だが、それが昌臣の指示であることは言わずもがなだった。
その一報を聞いた時、不思議と志保の心は落ち着いていた。

然るべき時が来たのだと。

完全に自立したとは言えないまでも、一人で生活をするようになって初めて気付いたことは数え切れないほどにあった。世の中に当たり前なんてことはないこと。自分がどれだけ恵まれた環境に置かれていたのか、それを実感する度に、祖父の有難みを感じた。
祖父がいてくれたからこそ、今の自分がいる。

最初は難色を示しながらも、最終的には日本を出ることも認めてくれた。
よくよく振り返ってみれば、祖父は本気で自分を縛り付けようとはしていなかった。籠の鳥だと決めつけて心を閉ざしていたのは自分自身で、本当はたくさんの愛情を注いでくれていた。

母とあんなことになってしまって、きっと祖父は想像もつかないほどに悔やんだことだろう。どんなに後悔したって、この世からいなくなってしまった人に想いを届けることなどできないから。
だからこそ、たった一人の孫である自分を、祖父は祖父なりに守りたかったのだと、ようやく気付くことができたのだ。
そのことに気付いたら、なんだか急に自分が幼く思えて仕方なかった。

それと同時に思ったのだ。
命というものがどれだけ尊いものであるか痛いほどにわかっているからこそ、今という時間を無駄にしてはいけない。
血の繋がった家族ともっと真剣に向き合っていこう、と。


今の自分なら、祖父とももっと違った向き合い方ができる。
素直にそう思えた。

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