いつかあなたに還るまで
「お祖父様も、宮間も。二人ともいつだって私の幸せを願ってくれている。心の底からそう思えるからこそ、私も覚悟を決めようと思いました。私さえ逃げずにきちんとその方と向き合えば、必ず幸せになれると今なら思えるんです」
「……」
「それに、万が一にも逃げ出したくなるようなお相手なら、その時は私が教育し直すくらいの気持ちでいようと思ってるんです」
「…え?」
孫らしからぬセリフに、昌臣がパチパチと目を瞬かせる。そんな祖父に向かってふふっと笑うと、おもむろに志保は右手でカッツポーズを作って見せた。
「私もこの五年を無駄には過ごしていないつもりです。結婚生活は二人で築き上げていくものですよね? 受け身になることばかり考えるのではなくて、必要なら自分が行動すればいい。そのことにようやく気付くことができました」
「志保…」
まるで別人のような孫の姿に、しばし呆気にとられた後、してやられたとばかりに突如昌臣が笑い声をあげた。昌臣が大きな声で笑うところを見るのなど初めてのことで、今度は志保の方がびっくりする番だ。
「わっははは! これは驚いたな。たった五年、されど五年…か。最初は反対もしたが、どうやら志保には必要な時間だったようじゃな。…今のお前なら大丈夫だろう。なぁに、儂だって無理矢理お前を結婚させようと思ってるわけじゃない。会ってダメだと思うのなら、その時は無理をする必要はない」
「お祖父様…」
「じゃが人生はどこで転機を迎えるかはわからん。儂と死んだばぁさんだって、元々は不本意な見合いから始まったんだ。気がつけばそんなことも忘れてしまうくらいにお互いに惹かれ合っていたがな。お前には過去逃げられた経緯があるからな。儂なりに相手はそれなりに吟味したつもりだ。…まぁ、とりあえず会うだけ会ってみなさい。全てはそれからでも遅くはない」
かつて祖父とここまで腹を割って話したことなどあっただろうか。
生まれて初めて、西園寺昌臣という人間と正面から向き合えたような気がする。
「お祖父様……はい。ありがとうございます!」
そう言って見せた笑顔は、昌臣にとっても初めて見る孫の晴れやかな姿だった。