いつかあなたに還るまで
そうして迎えたその日の朝、志保はとある場所を訪れていた。
「うわぁ、今年は開花が遅かったんだぁ。…きれーー…」
見上げた視線の先にはまさに今満開を迎えたばかりの桜が咲き乱れ、雲一つない青空とのコントラストは圧巻の一言に尽きる。風が吹く度にさわさわと木々が揺れ、心の中まで透き通っていくような感覚に包まれていく。
吸い込まれそうなほどの美しい景色にしばし見入ると、志保はバケツと柄杓、そして両手いっぱいの花束を手にこじんまりとした敷地へと入っていった。
石畳の道の両側には大小様々なお墓が並んでいる。やがてその一つの前で立ち止まると、真新しい花束が置かれているのに気付いた。昨日今日のものであるのがわかるほどに、まだ花は生き生きとしている。
「…誰が来たんだろう…?」
宮間だとすれば報告をしてくるだろうし、そもそも両親の命日は今日だ。来るとすれば、全てのことが終わってからのことだろう。
じゃあ一体誰が…?と思ったけれど、両親を知っている人はいくらでもいるだろうし、たとえ誰であれ、こうして故人を偲んで花を手向けてくれる人がいるだけで嬉しかった。
その隣に自分の持って来た花も添えると、両親の眠る場所がより一層華やかさを増して自然と顔が綻ぶ。
「…パパ、ママ、ただいま。ずっと来ない親不孝者でごめんね…」
志保がここへ最後に来たのは日本を経つ前の日のこと。
それ以降帰国していないのだから、当然ここへ来ることもできなかった。納得できるまで帰らないと決めたのは自分だが、両親の元へ来られないことだけがずっと心に引っかかっていた。