いつかあなたに還るまで
「…私ね、日本を離れて気づけたことがたくさんあったよ。辛いこともあったけど、それ以上に嬉しいことがたくさんあった。自分が生きてるんだって、こんなに思えたことはないってくらいに、今が楽しいの。…それから、ずっとあの子の傍にいてくれてありがとう」
両手を伸ばしてそっと墓石に触れると、志保は静かに目を閉じた。
その手は微かに震えている。
五年前志保を襲った悲劇。
決して忘れることなどできないその存在。
形として残るものは何もなかったけれど、志保は一人ここを訪れ、墓石の中に赤ん坊用の靴下を眠らせていた。
両親と共にいられますように。
いつも笑っていてくれますようにという願いを込めて。
その願いが届いたのだろうか。それ以降、時折両親と子どもが遊んでいる夢を見る。残念ながら子どもの顔は見えないけれど、とても楽しそうに、幸せそうに笑っているのだけは伝わって、いつも目が覚めたら泣いている自分がいる。
それは悲しいからじゃない。
あの子は幸せでいてくれるのだと思えて、嬉しかった。
今は亡き両親の無限の愛を感じることができて、幸せだった。
けれどそんな自己満足に包まれた瞬間、戒めるように浮かんでくるのだ。
___自分が愛した、ただ一人の男性の笑った顔が。