いつかあなたに還るまで

子どものことを一瞬たりとも忘れたことがないように、あの人のことを忘れた日も一度だってなかった。

…違う。どうやっても忘れることなどできないのだ。

アメリカでの生活が落ち着いて来た頃、宮間から里香子の妊娠騒ぎは嘘だったという話を聞かされた。当然のように結婚することもなかったのだと。
彼女はその事実を伝えるだけでそれ以上のことは何も言わなかったけれど、きっと今からでも彼の胸へ飛び込んでいけばいいということを暗に伝えたかったのだろう。それはよくわかっていた。

けれど、自分にはそんなことをする資格などない。
里香子を嘘つきだと責める立場にすらいない。


何故なら、この自分こそが大罪を犯しているのだから。


一生背負っていかなければならない嘘。
どんな理由があれ、彼に嘘をついたのは自分。
無関係な人を巻き込んでまでそう決めたのも自分。

そんな自分が今さら彼のところへ戻るだなんて許されるはずがない。
できるはずがない。
自分にできることは、ただ、ただ、彼の幸せを願うことだけ。


本来の姿を取り戻した彼が、どうか幸せになってくれますように。
幸せでいてくれますように。


これまでも、これからも、そっと、ずっと。
自分の心の中で、祈り続けていく。

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