いつかあなたに還るまで
いつまでも抱き合ったまま離れようとしない男女を、遠くから静かに見つめる影が二つ。
「…やれやれ。全く、とんと世話の焼ける二人じゃわい」
心底呆れたような溜め息と共に吐き出された言葉だったが、対照的にその声は慈愛に満ちていた。
「今の彼らならもう何の心配もいらないでしょう。…会長、本当にありがとうございました」
「…儂は何もしておらん。単に見合いを設定しただけじゃ。志保にはいつまでも売れ残ってもらっちゃ困るからの」
素っ気なく明後日の方向を向いてしまったが、ほんの少し頬が赤くなっていたことは心の中にそっと留めておこう。くすりと笑いながら、宮間はそう誓った。
「…さて。見ての通り若いもん同士で盛り上がっとるようじゃし、儂は先に帰るぞ。仕事がたんまり残っておるからな」
「はい。どうかお気を付けて。本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げる宮間に、昌臣は振り返ることもなく軽く手を挙げてその場から立ち去っていく。その足取りは七十代だとはとても思えないほどに軽かった。
やがて昌臣が見えなくなると、再び元の場所へと視線を戻す。そこでは今も尚、再会を果たした愛する者同士がきつく抱き合い、そうして時折微笑みあっている。
流しているのはもう悲しみの涙なんかじゃない。
これからは、そんな涙をたくさん見せて欲しい。
「幸せになってくださいね…」
そう呟いた宮間の目にも、うっすらと光るものが滲んでいた。