いつかあなたに還るまで

「優秀な人材というのはどこにでも眠っておるものだ。それを見つけ出し、磨き上げることこそが儂に残された命。まだまだ現役から退けさせてはもらえんわい」
「…お祖父様…?」

どう捉えていいか考えあぐねる志保に、昌臣がふっと目尻の皺を深める。

「お前が西園寺の名前に縛られる必要などない。これからは隼人くんと好きに生きていきなさい。ここに残るもよし、別の場所で暮らしていくもよし。自由に、自分の思うままに生きていけばいい。どこで生きていこうと、お前が儂の孫であることは変わりはしない」
「お祖父様…」

ぎっと革張りの椅子を鳴らして立ち上がると、昌臣は大きな窓から見える広大な敷地を見下ろした。細部まで手の行き届いたローズガーデンは、志保の母が幼い頃から大好きだった場所だ。よくそこで遊んでは、いなくなったと邸の人間を騒がせていたものだ。
今になってそんなことばかりが思い起こされていく。

「…ばあさんを亡くしてから、この財閥を潰すわけにはいかんとそんなことばかり考えていた。儂は儂なりに必死だったが、一方で本当に大事なものを失っていたということに長い間気付くことができなかった。そしてそれに気付いても、今さらお前とどう向き合えばいいのかもわからなかった」
「……」

ぽつり、ぽつりと語られていく悔恨の思い。
祖父の心の内に触れたのは、これが初めてだった。

「今さら何の償いにもならんが、せめてお前には幸せになってほしい。その気持ちに嘘はなかった。だがやればやるほど裏目に出るばかりで、正直儂自身も半分諦めかけていた。……じゃが」

ゆっくりと振り返った昌臣の視線が、志保の隣に立つ男へと注がれる。
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