いつかあなたに還るまで

「会長は最後までただ黙って聞いておられました。そうして彼が頭を下げてどれくらいの時間が経ったのかもわからなくなってきた頃…」


『決めるのは儂でも君でもない。志保が決めることだ』


「たった一言、そう仰いました。君は君の思う人生を歩んでいけばいい。そこに志保が必要だというのならそれで構わない。ただし志保がそれを望むかはわからない。全ては、然るべき運命が決めることだと」
「……」
「君たちが結ばれる運命ならばいつか必ずその日は来るだろう。それが近い未来なのか、ずっと遠い先のことなのか。あるいは一生繋がることはないかもしれない。それでもいい覚悟があるならば自分の好きにすればいいと」

昌臣はそれ以上何も言わなかった。
何一つ責めることなく、反対もせず。
それと同時にどうすべきだなんてことを指示することもなく。
まるで諭すように、静かにそれだけを告げた。

「それから霧島様は定期的にここを訪れるようになりました。会長に会いに来て、何てことのない世間話をして帰って行く。その間、互いに志保様についてお話をされることはただの一度もありませんでした」

隼人も昌臣も決して暇な人間ではない。しかも男同士、話すといっても内容などたかが知れている。それでも昌臣は来るなとは言わなかった。
この五年の間、一度だって。

「休日には足繁く施設へと通い、ますます子ども達に懐かれているのだと施設の方から聞いたことがあります」
「えっ」

ということは瑠璃やその他の子達とも会い続けているということか。
驚くと同時に、嬉しくてたまらなかった。
彼にとって、本当に心を通わせられる場所になれたのだと。

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