いつかあなたに還るまで
今二人が立っているのは雄大なアルプス山脈の一部。
二人が悲劇を迎える前、まだ幸せの真っ只中にいた頃、仕事で北欧へと来ていた隼人が立ち寄った場所だ。
いつか二人でこの景色を見たい。
そう誓っていた約束は、永遠に叶えられることはないかと思われた。
…だが長い時を経て、こうして現実のものとなったのだ。
二人の左手には、永久の愛の証がしっかりと刻まれて。
再会の後すぐに入籍を済ませた二人は、結局西園寺の敷地内に別邸を構えた。
昌臣は一切縛られる必要などないと言ったが、志保にとっても昌臣にとってもお互いが唯一の近親者。志保が昌臣のことを心の奥底で気にしていることを隼人は充分わかっていた。
志保が本当に望むことを言って欲しい。
どんな形であれ、自分達が幸せになることに変わりはないのだから。
優しくそう諭した隼人に、志保はぽろりと涙を流しながら、祖父と完全に離れてしまうのは嫌だと本音を漏らした。
決して依存するつもりなどない。
財産だって何一ついらない。
ただかけがえのない家族の存在を感じられる場所で生きていけたら。
志保が望んだのはそれだけだった。