いつかあなたに還るまで



そんな幸福に満ち溢れた日々に異変が起きたのは、二人が北欧から帰ってきて一ヶ月ほどが経ってからのこと。


「……」

志保は鏡に映る顔色の悪い自分をぼんやりと見つめていた。
ここ数日続いている倦怠感とふとした瞬間込み上げてくる嘔吐感。

…そしてじわりと感じる下腹部の痛み。

嫌でも身に覚えのある症状に、無意識のうちに両手がそこに触れている。


もうまさか…なんて思わない。
今の自分はいつ「そうなっても」おかしくはないのだから。

…もしここに本当にいるのなら。
手放しで喜ぶべきなのに。
嬉しくてたまらないはずなのに。

どうして私はこんなに怖くてたまらないのだろう。

あの時、たった一人で同じ状況に直面した時ですらここまで不安に襲われたりしなかった。

…その理由はとっくにわかってる。
ただ、気付かないふりをしていたいだけで。

「…っ」

じくりと襲ってきた痛みに、志保は下腹部を押さえたままずるずるとその場に小さく蹲った。

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