いつかあなたに還るまで




「志保、おいで」


寝室に入ってきた志保を見るなり先にベッドに腰掛けていた隼人が手を広げた。
出会った頃の冷たい眼差しなどもう思い出せないほどに、慈愛に満ち溢れた微笑みをその顔いっぱいに浮かべながら。

ほんの一瞬だけ躊躇いながらも、志保は吸い込まれるようにその腕の中へと我が身を委ねる。まるであつらえたかのようにぴたりと沿う互いの体に、耳を胸にあてながらほぅっと吐息が零れた。トクントクンと聞こえてくる鼓動が、シンクロするかのように少しずつ重なっていく。

ふ…と影が落ちると、すぐに志保の額に柔らかな唇が触れた。
それは再会してからというもの儀式のように毎日繰り返されていること。
額に、目尻に、頬に。顔中余すところなくキスの嵐が降り注がれていく。
やがて羽が触れるように、互いの唇がふわりと重なり合った。

「…」

あまりの心地よさに、気がつけばベッドの上に体が沈み込んでいた。
見ればすぐ目の前にはうっとりするほど整った顔があって。
その優しい眼差しは自分一人に注がれている。

「志保…」
「あ…」

するりと大きな手に頬を撫でられ、無意識のうちに体が強ばった。
ゆっくりと近づいてくる愛おしい人をスローモーションのように見つめながら、このままではいけないと自分の中の自分が必死に訴えている。

このまま…は、だめ…
でも、一体、何と言えばいい…?

私は…
わたし、は____


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