いつかあなたに還るまで

「何か気になることや自覚症状はありますか?」
「…時々、下腹部に鈍い痛みを感じることがあります…」

小さな声でそう言うと、女医はコクンと頷いて今一度モニターを見るように促した。

「これが何かわかりますか?」
「…心臓…ですか?」
「そうです。とても力強く動いてるのがわかりますよね。実際には僅か3、4センチしかない小さな小さな胎児が、これだけ元気よく鼓動を刻んでるんです。まだまだ初期で油断はできないのは事実ですが、まずはこの子の生命力を信じてあげましょう。母親の不安は子どもにも伝わると言われていますからね」
「伝わる…」

そっと左手でお腹に触れる。
心なしかそこはほんのり膨らんでいるような気がする。

「でも実際のところ不安になるなというのが無理な話ですよね。ですからそんな時こそご主人に支えてもらって、少しでも心穏やかに日々を過ごせるようにしてくださいね」
「…は…」
「任せてください!」

志保が答えるよりも先に力強く宣言した隼人に、志保はもちろんのこと、女医まで面食らったようにぱちぱちと目を瞬かせている。

「…ふふっ、これだけ心強い味方がいれば大丈夫ですよ。来年の春にはきっと元気な姿に会えますよ」
「…はい!」

あれだけ不安に押し潰されそうだったのが嘘のように、志保はその言葉を素直に受け止めることができた。
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