いつかあなたに還るまで
「…私のことよりいい加減宮間も自分のこと、でしょう?」
「…え?」
「え? じゃないでしょ。庭師の茂木さんから結婚を前提にしたお付き合いを申し込まれたんじゃないの?」
「えっ? ____な、ななっ…?!」
全くもって想定外の指摘だったのか、宮間が大袈裟なほどに驚いてみせる。
いつだって冷静沈着がトレードマークの彼女がほんのり頬を赤く染め、あたふたと動揺する姿は、出会って初めて見るほどになんとも貴重なものだ。
「ど、どこでそんな話をっ…?!」
「さぁ、どこだったかしら…? 小鳥のさえずりと一緒に聞こえてきたような気もするわね」
「な、何を言って…!」
冗談を冗談と受け止める余裕すらないらしい。
けれどそんな姿を見られることこそが志保には嬉しくて堪らなかった。
「ねぇ宮間。私あの時言ったわよね? これからはあなたと対等な関係でいたいって。もちろん長年築いてきた立場をゼロにするのが難しいのはわかってるの。でも、あなた心のどこかでこう思ってるんじゃないの? 『志保様が無事に赤ん坊を産むまでは』って」
「それ、はっ…」
図星なのだろう。珍しく言葉に詰まっている。