いつかあなたに還るまで
「もうすぐイルカショーがあるみたいですよ。行ってみますか?」
「そうなんですか? …はい、ぜひ!」
ショーのある外に出ると既に多くの人で溢れかえっていた。後ろの方で隼人が素早く二人分の席を見つけると、そこに腰掛けてショーを見ることにした。
十分ほど待つとショーが始まった。飼育員と複数のイルカ達が息の合った技を次々と披露していく。水の上を歩くように泳いで見せたり、ジャンプで輪っかを通り抜けたり。
目の前で繰り広げられていく演技から志保は目が離せなかった。
ずっと昔、まだ自分が小さかった頃____
両親と共に水族館へ行った記憶が溢れてきていた。まだまだ小さくて記憶なんてほとんどないはずなのに、何故か不思議と詳細な記憶が蘇ってくる。
両手で両親と手を繋いでジャンプしながら見て回ったことを。
あの時もこうしてイルカショーを見た。
純粋に感動して、ただただ楽しかった。
…今はもう叶うことのない遠い記憶。
幸せなはずの思い出なのに、記憶を辿っていくほどにどんどん胸が苦しくなっていく。笑っていた顔が徐々に曇っていくその一部始終を、隼人がずっと隣で見つめていたことに志保は気付いていなかった。