いつかあなたに還るまで
一方その頃、邸を出た隼人は信号待ちをしていた。ハンドルに両手を乗せて視界の隅に赤い光を捉えながら、目の前を流れていく車の波を見つめる。
「…思ったより難しそうな相手だな…」
正直、金持ちのお嬢様なんて笑って優しくすればすぐになびいてくるくらいに思っていた。少なくともこれまで接する機会がある女は全てそうだった。
だが彼女はどこか違う。
あの目が…じっと探るような瞳が頭から離れない。
まるでこちらがどう出るかを試しているかのようなあの目。
単純に警戒しているのか、それとも…?
視界が青い光に包まれる。
「…ハードルが高いほど得られるものも大きいってわけか」
誰に聞かせるでもなく静かにそう呟くと、フッと不敵な笑みを浮かべながらアクセルを踏み込んだ。