いつかあなたに還るまで
「あっ…!」
そうこうしているうちにフォークの先からスルリとローストビーフが滑り落ちた。…次の瞬間、考えるよりも先に志保の体は動いていた。
「……!」
自分で自分が信じられない。
気が付けばまるでくノ一のような素早い動きでそれをパクリと口でキャッチしている自分がいたのだから。
(私は何てはしたないことを…!)
我に返ると同時に沸き上がってくる羞恥心に全身が茹でダコになりそうだが、隼人はそんな志保に目を細めると満足そうに顔を覗き込んできた。
「美味しいでしょう?」
「…え…?」
「僕が言ったとおり絶品でしょう?」
「…は…い…」
正直ほとんど味など感じる余裕などないのだが、確かに口の中には豊満な肉汁と蕩けるような風味が広がっている。
「今日の私達には小難しいビジネスの話など必要ありません。純粋にこの場を楽しみましょう」
「……」