いつかあなたに還るまで
ハッと振り返れば隼人が志保の右手を掴んでいた。
まるでそれ以上は何も言うなと言わんばかりに。
「…霧島さん…?」
「志保さん、いいんですよ」
「でもっ…」
言葉を続けようとする志保に隼人は無言で首を振る。表情こそ穏やかだが、無言の中に強い意思が潜んでいるのを感じた志保はそれ以上何も言えずに唇を噛んだ。
再び俯いてしまった志保を横目で見やると、隼人はその視線を目の前で勝ち誇ったように笑っている男へと移す。
「何か言いたいことでも? 私は自分の発言を訂正する気はありませんよ。彼女にはもっと相応しい立場の男がお似合いだ」
「…っ」
瞬間的に体を強ばらせた志保の右手を包み込んだ手にグッと力がこもる。
だが下から見上げた隼人の顔は何一つ変わってはいなかった。
怒りもせず、それどころかどこか微笑んでいるようにすら見えて。
「確かに私では不釣り合いかもしれません。ですが私は彼女を1人の女性として見ているんです。決して 『西園寺の孫娘だから』 という目で見ているわけではない」