いつかあなたに還るまで




「いっけない、遅くなっちゃった」

お手洗いに行くと言ってから10分以上、人で混雑していて思いの外時間がかかってしまった。足早に待たせている隼人の元へと急ぐ。

「どこにいるんだろう。確かあの辺にって___あ」

会場の奥、薄暗いバルコニーに佇む目的の人物を視界に捉えた。
その場所まであと数メートル。
人の波をすり抜けて小走りにそこへ近づいていく。


だがやがて貼り付いたように志保の足はその場で動かなくなってしまった。
…否、動けなくなったのだ。



___ 彼の凍り付くような瞳を目の当たりにして。






「……もっともっとあなたのことを知りたいです…か」

カランとグラスを傾けながら堪らずに笑いが零れてくる。

「我ながらどこからあんな甘い声が出てくるんだと気持ち悪くなるな。…アカデミー賞も夢じゃないんじゃないか?」

クックッと肩が揺れるほどにおかしくてたまらない。

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