今日も、私は、なく、【完】
「あのね? あそこに見える大きいビルの近くにね? 新しく雑貨屋さんがオープンしたんだって、行ってみない?」
「えー? 朝日、今金欠じゃん」
「見るだけだからー、可愛いものあるかもしれないじゃん!」
ミーハーだなあ、と笑おうとしたところで、あたしの足は人ごみの中で立ち止まった。
「……絢子? どうしたの、邪魔になるよ」
「……」
――花屋の前、一宮さんがいる。
ドキドキと物凄いスピードで心臓が脈打って、頭が真っ白になってしまった。
だって、その彼の横には背の低いあの子も……――。
ああどうして。今見つけてしまう。
あの子に笑いかける一宮さんは、やっぱりあたしに見せる表情とは少し違くて、幸せそうだ。
やがて座りこんで花を眺めていた彼女は、楽しそう笑って立ち上がり、彼の腕に自分の腕を回した。
――あ、やばい。
こっちに向かってくる。
ばれる前に立ち去ってしまいたいと思ったけれど、足が動かなかった。
それと同時に見つかってしまいたいとも思った。