今日も、私は、なく、【完】
彼のその黒髪を撫でて、脱ぎ散らかした下着をシャワーを浴びることなく身につける。
一宮さんが目を覚ますその前に、あたしが先にホテルを出る。
一番最初に体を重ねたときに決めた彼との唯一のルールだった。
鞄から小さなメモ帳とペンを出して、また連絡してね、とだけ書いて彼の枕元に置いた。
それからまた暫く一宮さんの気持ち良さ気な寝顔を眺めて、そっとその場を立ち去る。
――一宮さんと出会ったのはちょうど4年前だった。
当時高校生だったあたしと、大学生だった一宮さんはたまたま始めたバイトで出会い、会ったその日にあたしは彼を好きになった。
運命だと思った。理屈じゃなくて、全部が大好きだと思うほどには。
だけどその当時から一宮さんは今の彼女と付き合っていて、その時から大勢の浮気相手がいた。
『悪い人ですね。彼女さんが可哀そうです』
『でも絢子ちゃんだっておれのこと好きでしょ?』
最初からバレていた。
反論する間もなく、バイト終わりに流されるまま同じホテルに連れて行かれ、あたしは自ら大勢の浮気相手のひとりに成り下がることになる。