今日も、私は、なく、【完】
でも、幸せだと思った。
それから一宮さんはバイトを辞めて社会人に、あたしは第一志望の大学に合格して、何度も季節が移り変わったけれど、あたしと一宮さんの縁が切れることはなかった。
朝7時。
家に辿り着いたちょうどその時に、あたしのスマホは着信を知らせて音を響かせる。
『――もしもし、絢子?』
いつものように、5コール目を聞いてから応答すれば、一宮さんが眠たげな声であたしの名前を呼んだ。
『無事、家着いた?』
「着いたよ」
『そうか、よかったな』
酷い人。
他人事のように言って笑った一宮さんは、それじゃ、と短い挨拶で締めくくり、あたしの返事を聞くことのないまま電話を切ってしまう。
いつもそうだ。
――一宮さんはあたしの気持ちに気付いてる、最初から。
でも応える気はないの、最初から。
それでも求めたのはあたしだから、いいの、分かってたから、最初から。