音楽が聴こえる
……やっぱ調子が狂った。香田の所為で。
ステージに上がると、観客のむせ返る様な熱気が伝わってくる。
俺達が自分のポジションに立って合図を送れば、薄暗いステージが一転、目映い光に包まれた。
「すぷらぁーーーしゅっっっ!!」
マイクを通し叫ぶ俺の一声で『わぁーっ』と歓声が上がり、間髪を入れずに山路のギターが唸り始めた。
練習はサボると仲間に怒られるし面倒臭いけど、ライヴは楽しくて仕方がない。
俺達の演奏で、俺の声で、皆が楽しそうに拳を振り上げる。
この一体感がタマラナイ。
俺の中が高揚感で一杯になる。
曲の間奏中、2人の居た場所を見やると、香田の後ろ姿が目に入る。
おいっ。
教え子がやってんのに、もう帰んのかよ。まだ、1曲目だぜ? あのアマ。
畜生っ、つまんないってか?!
仕方無いのか、しょせん地味先だしな。
でも、その背中を見詰める悟さんの目が。
やけに切なげで色気があって、男の俺がドキリとした。
香田。
……無いよなぁ。
頭を軽く振った俺は、ようやく集中して2番の歌詞を歌い始めた。