音楽が聴こえる
こちらに戻って来る謙二にすれ違いざま片手で頭をグリッとされて犬のようにじゃれつく山路。

謙二は俺達の前に戻って来ても何も語らず、水を口に含む。
目線は山路に向いたまま。

「……謙二。何か言えよ」

俺が口にする前に、痺れをきらせた斗夢が謙二に問うと。

「うん」と言ったっきり、謙二は考え込んだ。


「……バランスが良くないと言われたんだけど」

「バランス? 何の」

「俺達の音の。……ギターが被って音が消える音階とか指摘された。あの人、的確に高いクオリティを要求するんだね」

謙二は頭を働かせ始めたらしく、再び無言になった。


もう一度、山路に手振りを加えて話をする香田に視線を巡らせた。

香田の話しを聞きながら山路も頷く。

山路の奴の顔が赤く見えたのは気のせいか?


香田は最後に山路の背をポンと叩くと後ろの壁に戻って行った。
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