音楽が聴こえる
志田のドラムが繊細なビートを刻む。

高城のベースのアプローチが以前とは変わり、ルートを弾く音と山路のフレーズが時折ユニゾンする。



―― あたしが失ったものを見せつけるように。



彼等は進歩していた。


あたしは深呼吸をして、視聴覚室のドアをそっと押し開けた。

皆の視線が一瞬だけあたしに向く。

中でも斉賀の真っ直ぐな瞳が、歌声と共にあたしを突き刺す。

サビの部分に差し掛かり、もどかしいほどの切なさに胸が痛んだ。


悟は斉賀のことを昔のシュウと似ているって言ってたけど。

声質が似ている訳じゃない。

でも彼は、魂が揺すぶるほどの歌唄いになるかもしれない。


彼等はもっともっと上手くなる。


あたしは、静かに一番後ろの席へ腰を下ろした。
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