音楽が聴こえる



「香田ちゃーん、俺、良くなったっしょ」

演奏が終わって、香田を見やるとさっきとは別の、いつもの香田センセーの顔をして座っていた。さっきの表情(かお)が見間違いかと思う位。


山路はギターを置き、香田の側へ駆け寄る。

……奴のケツはシッポでもくっついてんじゃねぇーの?


「……なぁ、俺はー? まだ一度も俺の感想って聞いたこと無いんだけどー」

斗夢も小さな笑いを浮かべて、ドラムの前を離れ、山路の後ろへ続く。

謙二は「皆、懐くね」と俺を見て、ニヤッとした。

お前もだろ? って言われた気分だ。

俺は溜息交じりに香田見る。

そんな俺達のやり取りに気付く訳もない香田は「志田君は…………肉でも食えば」なんて真顔で言って、斗夢を笑わせた。

「何だよ、それ」

斗夢の質問に、香田は少しだけ表情を緩めた。

「スタミナ増強。志田君には筋トレとかお薦めしたいけど、付け焼き刃じゃね」

あながち冗談でも無かったらしい。
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