音楽が聴こえる
あたしは悠太の目の前でわざと立ち止まり、彼の目線があたしと合うのを待つ。
「は、はい?」
困惑の返事の後、ようやく悠太のクリンとしたリスみたいな可愛い瞳と正面から出会えた。
あたしはバンドの音に掻き消されないよう、悠太の身体に2歩3歩と近付く。
「悠太君だっけ。君に聞きたいことがあるんだけど」
彼はそんなに身長が高くないので会話がしやすい。
「へ、え、はい?」
不思議そうに首を傾げた彼に、あたしはいつもの化粧っ気のない顔でニコリと笑んでみせる。
「……『新妻の昼下がり』『女医のいけない診療室』『女子大生の秘密の講義』悠太君的には、どれがお薦めだったの?」
悠太の顔が見る見るうちに恥ずかしそうに歪み、片手で顔を隠す。
「な、な、なんで?!」
「どの子が好みだったのかなぁと思って。まあ、でも皆巨乳ちゃんだったね」
「恥ずっっっ」
イヒヒと笑って、赤い顔で羞恥に身悶えする悠太を横目で眺めつつ、あたしは今度こそ彼の前を通過した。
少しくらい意地悪言っても許されるでしょ。
あたしの腕、かなり痛かったし。