音楽が聴こえる
そんな父もあたしのために、生活スタイルを変えた。

大好きなギターを担いでフラフラと飛び回る生活を捨て、あのライヴハウスを友人から引き継いだ。


『音楽を捨てることは出来ないけれど、一緒にいこうぜ、相棒』

こうやって母に許されていたのだなと、子供のあたしが思うほど、 軽い言葉と裏腹の父の優しい笑顔にほだされて。

私達は一緒に歩み始めた。



どのくらい、弾いていたんだろう。

あたしのレパートリーは様々で、ジャンルの垣根なんて無い。

弾きたいものを好きなだけ弾く主義。

今日はジャズ。

観客が居ないのを良いことに、歌まで歌っちゃう。

一週間の疲れが体から抜け出て、心まで軽くなる気がした。


どんな形でも音楽に関わり続けたい、父や悟の気持ちも分かる。

彼等にとっては生活の一部であり、人生全てがそれに繋がるのだから。


……あ、ビール冷して無かった。

袋が汗をかいて、椅子を濡らしていた。


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