音楽が聴こえる

「……ここじゃあ話し難い」

シュウの予想外の行動に戸惑いを隠せないあたしの体は「来てよ」と、手を掴まれても動けない。

そんなあたしに痺れを切らす短気なシュウは、
掴んだ手に力を込めて引っ張った。

あたしは前のめりになって椅子から下ろされた。

……前言撤回。
細っこく見えたって腕の力はちっとも華奢なんかじゃない。

「待ってっ。あたしはこの子達を見に来てるんだけどっ」

シュウは動じることなく、あたしの体を自分の方へと引き寄せた。

「ビデオ見たから……悟に聞いた。マアコがここに来ることも。皆に気付かれ無いうちに来て」


……また悟の仕業か。

今日は全く姿を表していない悟。

そういうこと、なんだろうか。


「みんな?」

あたしの鈍った頭が動き始めた時、シュウの舌打ちが聞こえた。

ステージでは3曲目が終わり、斉賀がメンバー紹介をしている。

マイクを通した声に客の黄色いざわめきが反応する。

でもその中には、別の熱狂的な声がミックスされていた。
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