音楽が聴こえる
『あれ「infinity」のシュウじゃないっ?』
『キャーウソーッ』
『ホンモノかよー?!』
『人違いじゃないのー?』

それは、あたしの腕を引っ張り前を歩く男に向けられたモノ。

シュウは近付いて来ようとする客達を既のところでかわし、スタッフオンリーと書いた扉へ飛び込んだ。

「ふぅ……間一髪。面倒なことになるところだった」

後ろを振り向き、口の端を上げる。

その態度が自然過ぎて、逆に不自然に感じてしまうのは、あたしが捨てられた側の人間だから?


「……何しに来たの?」

シュウの瞳が隠れたままなのを良いことに、気が付くとあたしは、そう口走っていた。

それでも彼は臆することもなく言い放つ。

「マアコに会いに来た、それだけ。少しつき合ってよ」

「……こんなところ彷徨いてて良いの? 入院したんでしょ? 佐由美さんから聞いたよ」

あたしがさりげなく掴まれている腕をほどこうとしても、彼はビクともしない。
< 151 / 195 >

この作品をシェア

pagetop