音楽が聴こえる

side ジュン

◆◆◆
それは3曲目を歌っている最中の出来事だった。

前の見回りの時と同じ位置に座る、香田に近付く男がひとり。

そいつは派手なパーカーにGパンのラフな格好の奴だけど、こんなライヴハウスでサングラスなんて、スカした野郎に見える。

しかも香田に話し掛けてねぇ?

何なんだ? なんて考えていると、間奏の合間に謙二に、集中、と口パクされた。

謙二も見えてるってことは、ただならぬ雰囲気と感じたのは気のせいじゃねぇってことだ。


挙動不審にならない程度に、悟さんを目で探したが、見当たらない。

ちっ……香田を気にしてる場合じゃねぇのに。

そのうち後ろにいた観客のひとりが、香田の方を指差した。

その後から良く分からねぇ、さざ波みたいなもんが広がり始めた。

ここにいる奴等の中には俺達のファンじゃねぇのもいる。だから適当に聞き流してるのもいるんだろうけどよ。

ンでも、変なザワメキなんぞ要らねぇ。
起こさせてたまるか。

クソッと心の中で呟いて、俺はまた歌い始めた。気を散らしている奴等の目を自分へと向けさせるように。
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