音楽が聴こえる


3曲目の後、俺がメンバー紹介をすることになっていた。

だから、俺は無理矢理テンションをあげたまま、観客へと言葉を掛ける。

それでも一部の客の雑音は止まなかった。

自分達に向けられたものじゃねぇ、叫声。

俺の耳にまで『インフィニティ』と言う単語と『シュウ』と名前を叫ぶ声が響いた。

その時、俺の記憶が甦る。

この一週間、何度も思い返した奴だ。

ポスターをボンヤリ見ていた香田。



……悟さんを想ってたんじゃねぇのかよ。



でも、今のあいつは。

悟さんじゃねぇ男に腕を捕られ、小走りにスタッフ用の扉の中へ消えやがった。


手柄を誉めて貰いたい犬並みの感情なんか、捨てちまえっ。

俺達が演るのは、俺達のためだ。

他の誰かのためじゃねぇ。


第一、生徒の感情なんか誰が気にするもんか。


あいつを誘ったのは俺なのに、と一瞬でも思った自分自身に嫌悪を抱いて、中路のギターソロを聞いた。






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