音楽が聴こえる
ーーー
「及第点てとこか」

煙草をくわえた悟さんが、フラリと楽屋へやって来た。


ライヴが跳ねた後の、この部屋の空気はどこか重い。

並列に並ぶ長机が二つくつけられ、パイプ椅子が無造作に置かれていたが、誰ひとりその椅子には座らず、楽器を片付けていた。

邪魔されたとか一言では言い表せない、苦い気持ち。


「なんだ? 怖じ気付いたか?」

圧倒的な人間の、隠しても隠しきれないオーラみたいなもんを目の当たりにして、びびってると思われたのかもしれねぇけど。

「あいつらの前に演るっつーのは、自分達のファンじゃねぇ人間を取り込む度胸が必要だ」

「……もしかして、それでシュウさんを?」

謙二が漸く口を開くと、悟さんは煙草の煙を吐き出しながら、長机に腰を下ろす。

「んな、面倒なことしねぇさ。……偶然だ」

悟さんは、香田がその偶然に連れて行かれたのを、気付かない振りしてんのか?

確めたい気持ちがもたげてくる。
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