音楽が聴こえる
「……じゃ、香田…センセが連れて行かれたのも偶然っすか」

悟さんはそんな言葉を口にした俺の顔を見据えた。

「偶然じゃねぇよ。こっちの大人の事情って奴だ」

そして口の端を持ち上げ、皮肉っぽい笑みを俺に投げた。

「……お前が躍起になって茉奈をここに呼んだんで、手間は省けたがな」

俺がしつこくメールしてたことを知ってんのかよっ。

羞恥の余り、俺の体温が上がる。
でも、開き直って文句ぐらい言いたかった。

「しっ、知ってたんなら尚更酷いじゃねーかよっ。俺達は香田に聴いて貰いたかったのによっ!」

どうせ悟さんの飄々とした表情は変わんねぇだろうし、ガキの戯言と思われたってかまいやしねぇ。

俺が苛立ち始めたのを止めるべく、謙二がTシャツの裾を引っ張ってる。
その手をウザく感じ、邪魔すんなと振り払う。

悟さんは俺の苛立ちを煽るように、クックッと喉を鳴らして笑った。

「随分と懐いちまったもんだな。この間まで『地味先』なんて言ってたのによ」
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