音楽が聴こえる
「懐くなんて犬猫みたいに言うなっ! 大体、香田は悟さんのオンナじゃねぇのかよっ? あの男とどっかにしけこまれても、あんたは気になんねぇ訳?!」

「ジュンッ! やめろって」

今度は斗夢に腕を引っ張っられた。

プライベートに首を突っ込んでるのは分かってる。

それでも、聞きたいんだから仕方がねぇだろ。

でも悟さんは、そんな俺をスルーして、謙二に来週のオーディションの話しをし始めた。


……悟さんは大人だ。

俺なんかが太刀打ち出来やしないのは分かってる。

分かってるから……急速に動き出しそうな俺の気持ちも全部飲み込んで来たんじゃねーか。

「……汚ったねぇな。シカトすんなよ、悟さんっ」

俺はオーディションの話しを遮って、もう一度悟さんに詰め寄った。

悟さんは長机から立ち上がり、俺と目線を合わせた。

さっきまでの苦笑を漂わせた悟さんとは別の顔で、鋭い目が俺を刺す。

「ジュン。……教師相手に盛ってんじゃねぇぞ。お前が相手にしてる小便臭いガキと並べんな」


怒鳴られた訳じゃねぇ。

いつもより低い声で淡々と告げられただけなのに、圧倒的な悟さんの雰囲気に体が動かなかった。

悟さんは「また連絡する」と謙二の肩を叩いて、その場を後にした。






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