音楽が聴こえる
ーーー
モヤモヤした気分をもて余した俺は、人目を避けるように裏通りから駅へと向かった。


雑居ビルの犇めき合うビルの合間から、男と女の話し声が聞こえてきた。

必死に誘う男の声がする。
どうせ、ナンパの交渉決裂ってとこだな。


俺が気にせず横を通り過ぎた途端、ナンパされている女が駆け寄って来て、俺の腕を掴んだ。

「ジュンヤッ」

……げっ。梨花かよ。

「ほぅら、私の彼氏。彼を待ってたの」

どうやら、この男は梨花の好みじゃないらしい。

仕方ねぇな、と思いながらも、梨花を引き寄せ男を睨む。

このウサが晴れるなら、一発二発殴り付けても構わねぇし。

梨花にまとわり付いていた男は、舌打ちして「クソッ、本当に男持ちかよ。この尻軽女」と罵ったものの、揉め事を起こすつもりは無いようだ。
そのナンパ男は足早に消え去った。


「助かっちゃったー」

梨花は悪びれた様子も無く、舌を出す。

腕にくっ付いたまま離れない梨花を、軽く手で払った。

「……何やってんだよ。お前」

「ジュンヤのこと見に来たんだから。学校じゃ見せてくれないしー」

「こんなとこでウロウロしてんなよ、そんな格好で。さっきの男に同情するね」
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