音楽が聴こえる
「……出掛けにテーブルにぶつかっちゃってさ」

「曲が出来なくて、蹴散らした訳じゃないんだ」

シュウの頭が笑いで小刻みに揺れる。

「意地悪具合いが変わんないね。……やっぱりマアコだ」

シュウが目尻を下げて微笑むから、息を詰め目線を逸らした。

懐かしいなんて感情は、そんなのは厄介でしかない。

あたしはリビングの綺麗な花の絵に見惚れた振りをして、シュウに背を向けた。

リゾートホテルなんてものに縁の無い生活を送っているあたしにとって、少なからず興味を惹いたのも事実だけど。

もし自分が泊まりに来ているのなら、間違いなくそこら辺中のドアを開けてるだろうな。


……馬鹿みたい。

自分の考えたことに、舌打ちしたくなった。

こんなところにまで着いて来たのはあたしだけど、話しをしろって言ったのは、悟。

そして、ここに来たのは、シュウの話しを聞くためだ。

「……シュウの話しって何?」
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