音楽が聴こえる
15.気づいた想い

side 茉奈

◇◇◇
「ふん。それで?」

「それで約束して帰って来た」

深夜になって、送ると言ったシュウを丁重にお断りして、タクシーで帰って来た。

悟のマンションへ。

途中で消えたあたしを悟がどう解釈したのか、何となく気になった。

あたしの話しを聞きながら、煙草を手に取る悟の長い指先を目で追い掛ける。


あの後、シュウとあたしは昔みたいに言葉遊びをした。

連想ゲームみたいなもの。

ひとつの単語やフレーズから言葉をイメージして想像を広げる。

恋人同士だった時のようにはいかなくても、彼がリラックスしていくのが分かった。

『直接会いに行くって決めたものの、緊張してたんだ』

帰り際、あたしに握手を求めたシュウは、一瞬だけ手に力を込める。そしてポンポンと、握ぎった手の甲を叩いてから手を離す。

今日はやっと眠れそうだと、はにかんだ笑顔が向けられた。

あたしはその表情に、つい反応してしまった。

珍しいものを見たような顔をしていたらしく、照れて赤面したシュウが呟いた。

『昔はさ、マアコだけには弱いところ見せたくなくて、これでもかなり気を張ってたんだ。そうしないと、悟に負けると思ってたから』
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