音楽が聴こえる
「……シュウが病気になったことも悟は黙ってた。見舞いに行ったくせに」

文句を言うあたしをもうひと睨みすると、悟は立ち上がってふらりと歩き出した。

「シュウはお前に会いたがってたんだよ。それも昨日今日のことじゃねぇ。でも、人の話しなんか聞くタマじゃねぇだろう? お前はよ」

悟はテレビの前を陣取り、手足を伸ばして座り込む。

彼は大きな息を吐いた後、床に置いてあった缶ビールに手に取って一気に飲み干した。

「……今が良いタイミングだって思ったんだよ。あいつ昔と変わってたろう? ずっとお前の前では不遜な男を演ってたからな」

なんだ。
悟は知っていたんだ。

大胆不敵で天才肌のシュウは、どこか繊細な危うさも秘めていて。

多分彼のアンバランスな部分に、あたしは強く惹かれてた。

人よりも少し遅く訪れた恋で、逆上せ気味な想いだったのかもしれない。

自分では十分大人だと思っていたあの頃は、それほど大人では無かった。

そのくらいは、あたしにだって分かってる。
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