音楽が聴こえる
当分立ち去ってはくれる気は無いとみて、仕方なくお弁当の包みを開けた。

「へぇ先生、弁当作ってんだ」

柔らかそうな茶色い髪の毛が、思い掛けない至近距離まで近づいて来た。

……人の弁当覗かないで欲しい。

あたしは知らん顔して、いただきます、と手を合わせた。


それを合図のように、斉賀は自分達の状況を話し始める。

練習場所が無くなり思うように練習出来ないこと、憧れのバンド『infinity』の前座のオーディションを受けられるかもしれないこと、学校で練習するには部活ないしは同好会としての申請が必要で、顧問の先生が必要なこと。

歌声よりも少し低めの声がボソボソと、でも切々と。

あたしはただお弁当を頬張るのみで、相槌を入れる気にもなれない。


その間、ずっと目線を落として話しをする斎賀の顔を盗み見た。

うーん、嫌味なくらい綺麗な肌だ。

キュッと上がった眉に少し垂れた目元が可愛らしくも見えるし、少し大きめな唇も形が整っている。
< 25 / 195 >

この作品をシェア

pagetop