音楽が聴こえる
「ああ、斉賀クンね」

「どうしても引き受けて貰う訳には、いかないですか」

高城は礼儀正しい。

その分だけ、回答に妥協が許され無さそうだ。

「何で私なんでしょう?」

「だって、先生は俺らの曲を聞いてくれたでしょ」

「途中で帰っちゃったんですけど」

私の言葉に高城はニッコリ笑う。

「……ビデオ一緒に見たって聞きました。悟さんから」

あいつ……。

「俺は別に香田先生のプライバシーに立ち入る気は無いです。ただ、練習する場所が欲しいだけで」

微妙にあたしって、形勢逆転気味?

「……初めから高城君が交渉に来た方が、スムーズだったろうにね」

高城はあたしの眉間に浮かんだ皺をクスリと笑った。

「馬鹿な子には旅をさせろって言うし」

「高城君。それ、可愛い子よ」

「可愛い馬鹿な子だ。ジュンは単細胞生物だから」

「早く細胞分裂出来ると良いね」

あたしの投げやりな言葉に 「これからお願いします」と 、高城は猫みたいな笑顔を浮かべた。


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